8月8日の情熱(上)

かっこいい題名にしましたよ。
あ、今日は「縁遠さん」更新なので、なんでしたら、見てみてください。絵は、「8月の縁遠さん」あたりから少しマシになる予定なので、もう少し我慢してください。


今日は08年8月8日だなあ、と思って、思い出したことがある。
わたしは平成8年8月8日に非常にくだらなく、めんどくさいことに情熱を燃やしたんです。うわあ、あれがもう実に12年前なんだなあ。感慨ぶかいよ。
平成8年8月。わたしは高校3年で、受験の年でした。誰が言ったか知らないが、そのころも「夏を制する者は受験を制す」なんて言われてましてね、ああうぜぇ、と思っていた。むしろ私は夏に制されていた。暑いのやだし。家じゃどうせ勉強なんてできないし。図書館の学習室は朝早く行かないと席がすぐ埋まっちゃうし。
だいたい、春夏冬の長期の休みは、必ず友だちと旅行に出ていたのです。とはいえ、貧乏な高校生のこと、すべて日帰り、しかも青春18きっぷ。特急や新幹線なんか当然使わ(使え)ない。ものすごい早朝に出て、1日でどこまで行って帰ってこれるか耐久レースみたいなものでした。我ながら「男のオタク」らしい趣味だなーと思うんですけど、こんなマニアくさいことを当時から男女半々くらいのメンバーで楽しんでいたんだから奇跡的です。
それが、さすがに高3の夏休みとなると友だちを誘いにくい。みんなはまじめに勉強してるかもしれないし。あーどこかに行きたい。と、学習机の前で鬱々する夏休みだったのです。
で、ふとそのことに気づいたのはたしか、せいぜい3日前かそこらのことだったとおもう。あ、今年って平成8年8月8日が来るんだな、ということ。
8年8月8日なんだから、八のつくところにでも行ってみたいなー、と、ふと思っちゃったんです。
八がつくところ。関東某所に住んでいた私が日帰りで行けるところ。八王子。あんまり行ってもおもしろそうではない。以前に家族旅行のとき、千葉の八街というところを通った。でも、何があるかは知らない。んーどうしよう。八がつくところって意外とあんのね。
考え出したら止まんないんですよね。勉強をしなきゃいけないときにかぎって、勉強以外のことに対する集中力がめちゃくちゃ研ぎ澄まされる。わたしはテレビ台の下の、電話帳とか辞典とか、厚い本が置いてあるところをあさって時刻表を出してきた。関東に八がつく駅はけっこうたくさんあった。
……八年八月八日に、八がつく駅、八か所回れそう。
こうひらめいたときの私の、エウレカ!と叫びたいきもちといったらアンタ。暗鬱とした受験の夏休みに突如降ってわいたアイデアです。
いや、これを今のモーニングとかの企画でやってるならまだ分かりますよ。しかし、田舎のひとりの高校生の、何のカネにもならん思いつきですからね。あたりまえだけど全部自費だし。べつにどこに発表するわけでもなし(まさかこうして12年後にこういうところで書くなんて思ってないし)。何の自慢にもならないし。バカなんだよほんとに。
そのとき私が思ったのは、とりあえず八王子・西八王子で2つと数えるのは反則、とおもった(何に対する反則なんだかわからんけど、盛り上がってるからしょうがない)。ちゃんと、違う地名で八か所がいい。あと、行ったらもちろん証拠を持ってこなきゃいけないので、切符を買ってくる。となると、切符のデザインはそろってたほうが美しいから、JRだけがいい。


そして私は、こんなくだらないこと(それも受験シーズン)に誰かをつきあわせるのも申しわけないので、平成8年8月8日、実に朝6時半くらいの電車でひとり、実家の最寄駅を出たんです。
まず向かったのは八丁堀です。なぜこんなにも早い時間なのか。
それはもちろん、切符に印字される時間を「08:08」にするためですよ!(鼻息を荒らげ唾を飛ばしながら)
8時ちょっと前、八丁堀駅に着きました。八丁堀は東京都心。高校生の私は夏休みだけど、当然社会人は勤務の日なのでスーツの大人でごった返している。幸いほとんどの人が定期券で通るので、切符の券売機はすいている。腕時計を見ると8:01。まず私はいちばん安い切符(小人用の、当時60円とかだとおもう)を買った。まだ8:08じゃないのに、なぜか。
自分の時計と券売機の時計のずれを確かめるためですよ!!(目を充血させ激しく腕をふりながら)
慎重すぎてキモい。もう、このキャラクターからは、塚地さんが演じるキモオタのビジュアルしか思い浮かびませんよね。
時計は3分くらいずれてた。ああやっぱり確かめてよかった。さああとは、タイミングを計り8:08になるときに切符を買うのみです。
そのとき、ふと上の料金表に目をとめた私を、いま29歳の私はほめてやりたい。
漫然と「180円」(←安いし、一応8が入ってる)の切符を買おうと思っていたが、「800円」の切符があるではないですか!こっちのほうが絶対いい! んもう、8だらけです。わくわくです。手が震える。
うしろをリーマンがスイスイ通りぬける中、ひとり券売機の前でうろうろする不審な少年(当時)。そして時は来た。緊張の一瞬。400円を入れ(貧乏なので、800円はきつかったんです。小人用を400円で買っても切符には800円って出ます)、ボタンを押します。
08:08!オッケー!
しかも、(↓押し入れを漁ってわざわざさっき出してきました)

切符に必ず印刷される通し番号みたいな謎の4ケタの数字の、下2桁が88!! これは奇跡じゃないですか!
八丁堀駅で狂喜乱舞したい気分だったけど、周りは会社に向かうスーツの人だらけ、わたしはたったひとりですので、無言でニヤニヤしながら切符をしまいます。で、ふと料金表をもう一度見てみると。
「880円」があった。
しまったあああああああああああああああああああ!!
このときの悔しさといったらもう。
でも、この下2桁の奇跡はわたしを十分に満足させました。そそくさとわたしは次の「八」に向かう。08:08を気にするのはここだけ。あとはふつうに旅行気分で、着いた先で切符を買うだけです。
でも、このひとり旅(というか、ひとり企画?ひとりロケ?)ではもう一度奇跡が起きたんで、次回へつづく。


当時17歳にしてこの鉄道マニアぶり……というかこれは内容がまったく鉄道マニアではないよな、そうなんですよ、わたしは全く鉄道マニアではなく、何かまったく関係ないきもちわるい情熱に対して、手段として鉄道を使うだけなんです。昔からそうです。いままで好意的にここを読んでくださった方にドン引きされないか、けっこう心配です。
中学時代にも、「学校教材の『美術資料集』に載っている風景さがし」の旅をしたことがあってこれもかなりきもいんですけど、これもまた機会があったら書きたいです。