いろぞね第二部

またお知らせです。
オシャレ女子のカリスマとも呼ばれオシャレの権化のようなわたしですが、ついにオシャレの極みとも呼ぶべき「裏モノJAPAN」に寄稿いたしました。ものすごくうれしいです。裏モノJAPANはマジでおもしろい雑誌なんでみなさんとりあえずグラビア部分はおいといて中身を読むべきだと思います。女子もです。
それで私は今月号(24日発売なのでおそらくもう書店にはあるでしょう)の「どうしてこんなにもてないんだろう」に寄稿したんですけれども、けっこう勢いで書いた文だったもんで、読み返してみるとかつてないくらいの悪文でした。お仕事をくださったSさん、赤澤さん、なんと申しあげたらよいか、ほんとにすみません。内容はともかく、文体といい論のまとめ方(そもそもまとまってない)といい、どうしようもないくらい読みにくい悪文でした。いま、心底反省しています。ごめんなさい。冗談とかじゃなくてほんとに反省しています。


そんな反省をふまえて長崎旅行のつづきです。
この某島はせいぜい2〜3か所の名所のほかは特に何にもない島で、おとなりの大きな島からもそう遠くないので、観光でわざわざこの島に泊まる人はほとんどいないらしい。だから、この旅館に泊まる人はほぼ、釣り客である。釣り客といえば、まーほぼすべて、おっさんである。だから、若い男と若い女のわれわれは、おとうちゃんにとってもおかあちゃんにとっても刺激的なのです。何しろ、69歳のおとうちゃんが(おそらく世帯主として)集落で3番目に若いと言ってたんだから。われわれはめちゃくちゃ若い方に入るのですよ。
で、酒の浅いうちは、「わたしは標準語でしゃべりますよ」などとがんばっていたおとうちゃんも、焼酎をがぶがぶ飲むにつれ「いっちゅも、泊まるのはオトコばっかりやしゲートボールの仲間呼んだってジンジとバンバばっかりじゃ」と方言バリバリでごきげんに。
おかあちゃんも、うさくんに対して「アーーーほんとにアンタは、長女のむこにそっ・・(タメ)・・くりッ!! ケンジくん(娘婿)は、ほんっ・・(タメ)・・とにいい男ぞーー!! ケンジくんにそっ・・・・くりじゃ!!!」とごきげんになってゆく。(ちなみにおかあちゃんはまったく酒を飲んでいず、シラフのまま4時間、超高テンションをたもっていた。驚異です。)
そのうち、いちのえさんにあだ名がつけられた。(念のために繰り返しますが、われわれは客です。お金を払っています。)
「さっきわたしがキャッチボールばしとったときに最初あんた見て中学しぇーかとおもったたい」とおとうちゃんは言い、いちのえさんはそれから「ちゅうがくしぇい」と呼ばれつづけました。「いや、アタシもう30だから!」などという主張はまったく通りません。
(ちなみに濃い九州弁って、サ行がシャ行になんのね。例:「僕は死にましぇん」)
いちのえさんは、ほかにも「アンタはびっつびじょかよ、くろびっつはなか」と言われていた。あーもう単語をどこできったらいいのか分からない。ヒアリング不能。(のちにネットで調べ、「びっつじょか」と「くろびっつ」の意味は判明。)
で、私は何かというと、
「アンタ、顔の白かこつなー。」
「ほんッ・・・・と白かね。びょーしん(病身)のごたるわ」
「びょーしんぞ。いろぞねじゃ」
「ユーレイのごたる(ふりつきで)」
と言われ、さすがにユーレイはやだよー、と言ったら「いろぞね」に落ちつきました。いろぞねって何だ!!??
もちろんおとうちゃんに聞いたのですが、
「顔の白うて……まあ病身の……」
「え? やっぱりほめ言葉じゃないんですか?」
苦笑いで首をかしげるふたり。うわーやっぱほめられてない。
帰ってからネットで調べようと思ったんですが、その地方の方言などの解説などを見ても「いろぞね」は一件も出てきません。気になるよー! なんだよいろぞねって! 分かる人がいたらぜひ教えてください。
うさくんは何なのかというと、「ケンジくん」にされてしまった。もはや娘婿扱いです。
1日目は島の話を聞いたり、某大物芸能人がよく来ていたときの逸話をしたり、おとうちゃんが昔スポーツ万能だった自慢話をしたり、という感じでわりと平和な方。……といっても十分におもしろいのです。二人の間ではどうも四十余年の歴史が作り上げたお決まりのネタがあるようで、「フサコ(おかあちゃん)もな、最初はアキフミくんアキフミく〜んてわたしを呼んじょったたい、それがもうほんの3か月で、オンガワラ(鬼瓦:怒り顔の比喩ですね)じゃ。だからわたしは耐えて耐えて、『おしん』たい」
「バッッッッッ・・(タメ)・・・かじゃなかろか…。おしんは私じゃ! なーんもせん、あんたブタじゃ! アーーーーーもう、おとうさんの話は3分の1聞いとりゃよか」
「わたしはマジメやけん二宮金次郎じゃ」
「イチノミヤじゃ!!」
というやりとりを多分10回は聞きました。
二人の会話には平気で二人しか知らない固有名詞が割りこんでくるし、学生時代(40年以上前)の話をいまだにするし、開始1時間で100%方言になるし、おとうちゃんはだんだん口が回らなくなってくるし、どんどん聞き取り不能になってくる。某芸能人が愛人(なのかどうか、方言がきつくてよく分からん)をつれてきたときに、おとうちゃんはおっぱいのあまりの大きさについ注目してしまった。そしたらその女は「もんでいい」と言ってきたので、某芸能人がニヤニヤ見てる前で揉んだ…とか、そういうバリ下ネタも入りつつ、1日目は11時半くらいでおひらき。
いやあ、長かったー。まいった。でも2日目の話の方が格段にすごかったので、実は1日目の話はすっとんでしまってよくおぼえていない。


2日目、朝食。
電子ジャーがなぜか2コあるらしい。おかあちゃんは和室広間にわざわざ電子ジャーの片方を持ってきて、「きのうおとうさんにスイッチ押してと言っちょったになー−んもせんとじゃ!! ピッとすりゃええのに、ほんっっとにあのクソジンジはなんもせん!!!」とグチりながら、ジャーの前に体育すわりでご飯が炊けるのを待っている。台所ではもう1コの電子ジャーでおとうちゃんがご飯を炊いたらしく(方言のせいか、このへんの事情がよく分からん)、「わたしの炊いた米のほうがうまかろ」などと言っている。なんちゅうか、ほんとにかわいい夫婦です。
午前はレンタカーで島のすみずみを探索。

↑行き止まりの集落で見つけた不安定な巨岩。これだけ絵になる景色なのに、なんの看板もないし、どうやら観光スポットでもなんでもないようです。大らかー。とちゅう、小さな集落でおばあちゃんにじっと注目されたので(よそものはそりゃあ目立つからなあ)あいさつをしたら、あいそよくしゃべってくれて「あそこもガラィエ、あそこもガラィエでもうここも4軒しか住んじょらん」と集落情報を教えてくれた。「ガラィエ」が空き家のことだというのは雰囲気で解釈できる。その後わたしたちのあいだで、空き家のことはふつうにガラィエと呼ぶようになりました。
おばあちゃんは当たり前のように家に招き入れてくれ、みかんと飴をふるまってくれた。家の中にいたおじいちゃんも、突然の訪問客にさほど驚きもしない。旅館の夫婦とちがって、おだやかなおふたり。方言もわりと聞き取りやすい。わたしたちが×旅館に泊まっているということを話すと「あそこのフサコはいとこたい」と言う。偶然会った人なのに、なんつーせまい社会だ…。人口数百人の社会とはこういう世界なのですねえ。
それなら、会ったことをフサコさんに言っておきますよ、というと「いい、言うな」と嫌がる。なぜかをきくと
「フサコはバカじゃけん」
えええええ……。
ま、人間関係いろいろあるよねえ…。

↑おばあちゃんに会った集落。この道はいちおう、島の幹線道路です。ちょっと沖縄っぽい。島に食堂らしきものはほんとうに1軒もないということはあらかじめ聞いていたので、お昼はもともと買っておいたカップラーメンなのです。わたしたちは宿にもどってお湯をもらいました。フサコさんは昨日はりきりすぎてつかれたのか、寝ている。だいじょうぶなのか。一度大病したみたいだし、ほかにもケガの後遺症で片足が悪いフサコさん。宿のトイレやお風呂の掃除に手が回らないのもいたしかたないのかもしれない。
午後は島いちばんの観光スポットを見に行って、夜また宿にもどった。当然ながらこの日も宴会となりますが、フサコさんの姿はない。体調がわるくてとなりのへやで寝ているもよう。おとうちゃんも、おかあちゃんがいないと心なしか元気がなく、もともとシャイなので話がさほど盛りあがりません。

↑ほら、ごはん。うまそうじゃろ? ほんとにうまかよー。冷めてるけど。しかし、きのうの様子で「下ネタもいける」と確信したのか、酔うにつれて少しずつ下ネタを小出しにしてくるアキフミ。いわく、子どものときに相撲では負けなかったけど、中学になると相手にわきげがぼうぼう生えとるから、まだツルツルのわたしはびびって負けてしまったとか、ましてチン毛にいたっては大負けだったとか。(あっさり書くとつまらんけど、方言と話術でこういう話がいちいちおもしろいんだよ。)
ちょっと話がヒートアップすると、となりで寝ていたフサコもときどき口をはさむようになって、とちゅうでいてもたってもいられなくなって、寝床をぬけて宴席に来てしまいました。
ここからの展開が、下ネタの怒濤攻撃と笑いまた笑い、そしてまさかの感動のフィナーレなのであった。最終部につづきます。